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第1話 「パート戦闘員・鈴木」
○広野
    人家など見当たらない物寂しい所。
  鈴木信二(32)が秘密結社・ヴァーミンの戦闘服を着て、戦闘ポーズをとりながら、にじり寄っていく。
  ほかにも同様の格好をした者が数人。
  鈴木たちが見守る中、リッダーマンと蚤男が戦っている。
  リッダーマン、両手を蚤男に向ける。
リッダーマン「イクスターミネーション!! 」
  リッダーマンの両手から白い液体が飛び出る。
蚤男「うわぁっ」
  蚤男、叫び声を上げながら倒れ、爆発炎上する。

○堤防の道
  走り去るリッダーマン。その後を、田中陽一(10)ら、子供たちが手を振りながら追いかける。
陽一「リッダーマン、ありがとう」
  手を振りつづける子供たち。

○サブタイトル

○ヴァーミンのアジト
  洞窟を刳り貫いたような部屋。
ヴァーミンの結社旗が壁に張られ、その前に玉座があり、ヘドラー総統(72)が座っている。
ヘドラーの両脇にメドゥーサ長官(32)とラット将軍(45)が控え、戦闘員たちがその前に跪いている。鈴木も跪いている。
メドゥーサ「おのれ、リッダーマン。またしても、邪魔をしおって」
  チャイムが鳴る。(キーン、コーン、カーン、コーン)
鈴木「あっ、終わりだ」
  鈴木、立ち上がって部屋を出て行く。他の戦闘員たちも鈴木に続く。
ヘドラー「どういうことだ? 」
メドゥーサ「パート勤務の者たちです。終業の時間ですから」
ヘドラー「パートの戦闘員で、リッダーマンに勝てると思っておるのか? パート勤務では忠誠心が足りないだろう」
メドゥーサ「はっ。仰せの通りでございます。しかしながら、正規採用の希望者がおりません」
ラット「世間では我らは、悪の手先として通っており、人気がございませんからな」
メドゥーサ「馬鹿な。我らに言わせれば、人間こそ悪の手先だ。リッダーマンなどという怪人を作り出しおって、我らを絶滅させる気であろう」
ヘドラー「リッダーマンに勝つことだ。さすれば、世間の我らを見る眼も変わろう」
メドゥーサ・ラット「はっ。御意に」

○鈴木のアパート・外(夕)
  木造二階建ての二階の部屋。
  私服に着替えた鈴木がカギを開けている。
  大家が来て、カギを奪い取る。
大家「家賃を貰うまで預かっとくから」
鈴木「え、そんな」
  構わず行ってしまう大家。

○堤防道路(夕)
  鈴木が歩いている。
鈴木「命懸けの仕事なのに、日当安いからな。リッダーマンを倒さなきゃボーナス出ないし」
  前方から自動車が来て、鈴木を撥ね飛ばす。

○堤防道路下の土手(夕)
  鈴木が転がり落ちて行く。
  土手の下まで転がり落ちて動かない鈴木。

○堤防道路(夕)
  鈴木を撥ねた車が停まり、窓から田中健次郎(40)が顔を出して、土手の下を見る。
田中「おや? 」

○田中の車・内(夕)
  後部座席に陽一と田中里佳子(14)が乗っている。
里佳子「お父さん、ヤバくない? 」
田中「人が来ないうちに運ぶぞ」

○田中家・全景(夜)
  一戸建ての建売住宅。
  窓から灯りが漏れている。

○同・ダイニング(夜)
  田中が、ダイニングテーブルで晩酌をしている。
  田中博美(37)が夕食の支度をしている。
博美「それで家にまで運んで来たの? 」
陽一の声「うん」

○同・リビング(夜)
  ソファに横たわる鈴木。
  鈴木の額にタオルを乗せる陽一。
  里佳子(14)が鈴木の戦闘服を持って駆け込んで来る。
里佳子「ねえ、見て見て。これ、ヴァーミンの戦闘服よ。この人の荷物の中に入ってたの」

○同・ダイニング(夜)
  里佳子がダイニングから移って来る。
博美「イヤーッ、こっち来ないで。捨てて来て、そんな物」
里佳子「大丈夫よ」
田中「荷物を開けたのか? 」
里佳子「だって、調べなきゃ何処の誰か分かんないでしょ」
田中「そりゃ、そうだ」
博美「もうヤーネー、ヴァーミンだなんて」
田中「ま、何か事情があるんだろ。目を覚ましても責めちゃいかんぞ」
里佳子「いつまで寝てるのかしら」
博美「救急車呼んだ方がよくない? 」
田中「怪我はしてないんだろ? おおごとにしない方がいい」
博美「何処かに連れて行って貰いましょうよ。‥‥‥ヴァーミンて保険きくのかしら」
  陽一がリビングから移って来る。
陽一「どうして皆んなヴァーミンのこと、嫌うの? 」
里佳子「決まってるでしょ。気持ち悪いからよ」
博美「それだけじゃないわよ。悪い菌を持っていてそれを辺り一面にばら蒔くのよ。皆んなが迷惑するの。‥‥‥ちょっと里佳ちゃん、その服向こうに持って行って。臭うでしょ。換気扇壊れてるんだから」
  里佳子、戦闘服を持って出て行く。
田中「リッダーマンが早いとこ駆除してくれりゃいいんだがな」
博美「ホントね。高い税金払ってるんだから、しっかり駆除して欲しいわ」
陽一「税金て? 」
博美「役所が使うお金よ。リッダーマンは国民のために働く特別公務員なの。だから税金から給料を貰っているのよ」
陽一「え、嘘。リッダーマンて給料貰ってるの? 」
  里佳子戻って来る。
里佳子「当たり前でしょ。ボランティアで正義の味方やる人なんていないわよ。(鈴木を顎で指しながら)その人だってそうよ。好き好んでヴァーミンになんてならないわよ。お金を貰えるからやってるのよ」
陽一「じゃ、お父さんもリストラされたらヴァーミンになる? 」
田中「他に勤め口がなければな」
博美「馬鹿なこと言わないで。やですよ、私は。直ぐに離婚して貰いますからね」
田中「例えばの話だろ」
陽一「ヴァーミンのお仕事って何? 」
田中「そりゃ、おまえ、世界征服とかだろ」
  首を傾げる陽一、里佳子、博美。

○ヴァーミンのアジト(夜)
  ヘドラー、メドゥーサ、ラットが円卓を囲んでいる。円卓の上には地図が広げられている。
ヘドラー「次の攻撃目標はここだ」
ラット「おうっ。ドラッグストアですな」
ヘドラー「このドラッグストアは全国に何件もの店舗を展開するチェーン店の本部だ。ここを叩けば、農薬の流通に大打撃を与えることができる」
メドゥーサ「いつもながら、総統の作戦には感服致します」
ラット「我らは農薬に相当苦しめられましたからな」
ヘドラー「この世から農薬を消し去るのだ」
メドゥーサ「はっ。して、今回の作戦指揮はいずれの者に? 」
ヘドラー「ゴキブリ伯爵を呼べ」
ラット「承知致しました。この作戦の成功の暁には、人間どもにわれらヴァーミンの基本的権利を認めさせましょうぞ」
ヘドラー「うむ。まずは選挙権だ。我らの息の掛かった者を国会に送り込み、いずれは、総理の椅子を手に入れるのだ」
メドゥーサ・ラット「はっ」
ヘドラー「恐れ慄け、人間どもめ。はっはっはっはっはっはっ」

○田中家・ダイニング(夜)
  田中と博美がお茶を飲んでいる。
博美「早く出て行って貰いましょうよ」
田中「気絶してるんだから仕方ないだろ」
博美「臭くない? ドブ川みたいな臭いしない? 」
田中「気のせいだよ」
博美「だって、換気扇、壊れてるし」
田中「ただの戦闘員じゃないか。臭う訳ないだろ」
博美「家にヴァーミンがいるなんて、ご近所に知られたら何言われるか。隣の草田さんなんてホントおしゃべりだから。二分もしない内にここは赤痢とコレラの巣窟だって言う話が町じゅうに広まるわよ」

○田中家・リビング(夜)
  パジャマ姿の陽一が里佳子に追い駆けられて来る。
里佳子「陽一、待ちなさいよ」
  鈴木の寝ているソファを挟んで対峙する二人。
  里佳子が割れたマグカップを持った手を突き出す。
里佳子「あんたが割ったんでしょ、これ。弁償しなさいよ」
陽一「弁償なんて‥‥‥」
里佳子、陽一に飛び掛かろうとして、鈴木を踏みつける。
鈴木「うっ」
  ソファの周りを逃げる陽一。それを追う里佳子。
  陽一を蹴ろうとして誤って鈴木を蹴る里佳子。
  飛び起きる鈴木。
鈴木「来いっ。リッダーマン」
  走るのをやめ、鈴木を見る陽一と里佳子。
陽一「生き返った」
里佳子「お母さん、ヴァーミンのおじさん生き返った」
鈴木「? 」

○同・ダイニング(夜)
  椅子に登って換気扇を修理している鈴木。
  田中が見ている。
田中「直るかい? 」

○同・リビング(夜)
  柱の影に隠れる様にして博美が鈴木の様子をうかがっている。

○同・ダイニング(夜)
鈴木「大丈夫、直ります」
田中「器用なものだね」
鈴木「ヴァーミンに入る前は電器屋にいたものですから。大抵の家電は直せます」
田中「へえ、大したもんだ」
鈴木「よしと。直りました」
  椅子を降りる鈴木。
  ニヤッと笑う田中。
鈴木「? 」

○同・リビング(夜)
  エアコンの中を掃除している鈴木。
    ×    ×    ×
  パソコンのメーラー設定をしている鈴木。
    ×    ×    ×
  スカパーのアンテナ調整をしている鈴木。

○同・リビング(夜)
  ウイスキーのボトルを挟んで田中と鈴木が座っている。
田中「いやぁ、大したもんだ。ヴァーミンにしとくのはもったいないな」
鈴木「家電の修理技術者試験の資格を持ってるんですが、今は皆んなドンドン買い換えちゃうじゃないですか。リストラされちゃって」
田中「それでヴァーミンに? 」
鈴木「ええ。自分で家電品の店をやりたくって。そのための資金を蓄えようと思ってるんです」
田中「ヴァーミンて儲かるのか? 」
鈴木「時給六百五十円です」
田中「最低賃金ギリギリだな」
鈴木「アパートの家賃も払えません」
田中「そりゃ大変だ」
鈴木「リッダーマンを倒すと、ボーナスが出るんで、それで何とかしようと思ってます」
田中「そうか、まあ、頑張りたまえ」
鈴木「そうは言っても、正義の味方をやっつけるというのは、気が退けますよ」
田中「仕事じゃ仕方ないだろ」
鈴木「はい」
田中「それに、君みたいのにやっつけられる程リッダーマンは弱くないだろ」
鈴木「いや、僕だってやる時はやりますから」
  里佳子が割れたマグカップを持って来る。
里佳子「小父さん、これも直る? 」
鈴木「これは専門外だな」
里佳子「ちぇっ、役立たず」
  里佳子、出て行く。
田中「おい、里佳子、母さんに言って氷貰って来てくれ」

○同・ダイニング(夜)
  博美「冗談じゃないわ。ヴァーミンなんかと」
  包丁をまな板に突き刺す博美。

○同・リビング(夜)
  包丁を持ったまま博美が入って来る。
博美「いい加減にして頂戴。何でヴァーミンなんかと意気投合してるのよ」
田中「なかなかいい青年だぞ。自分の店を持つために頑張ってるんだ」
博美「頑張るのは結構ですけどね、私の視界の外で頑張って欲しいものだわ」
鈴木「すいません。直ぐに出て行きましょうか? 」
博美「そうして頂戴。普通はこんなこと言われる前に出て行くものなのよ」
田中「失礼なこと言うな。換気扇とか、色々直して貰ったろ」
博美「私は頼んでません」
田中「何を怒ってるんだ」
博美「私は嫌なの。嫌なの。ヴァーミンなんて不潔で汚らしいものは。ネズミとか、ゴキブリとか、ヘビとか、そういうもの、子供の頃からだめなの」
鈴木「分かります」
博美「何が分かるのよ? 」
鈴木「皆んなそうなんです。ヴァーミンを嫌う人たち、皆んなそうなんです。けど、ヴァーミンにも言い分はあるんです。ヴァーミンだって元は人間が作り出したものなんです」
博美「あんなもの、人間が作る訳ないでしょ」
鈴木「いえ、作ったんです。化学物質を下水に垂れ流したり、遺伝子をいじったりした結果、新種のウィルスが生まれ、自己増殖してしまったんです。そのウィルスに感染した人たちの末裔がヴァーミンなんです。虐げられた可哀相な人たちなんです。彼らは人類を征服してやろうなんて大それたこと考えてる訳じゃないんです。自分たちの権利を主張したいだけなんです」
博美「調子のいいこと言って。迫害されたからって、気持ち悪い姿形をして人に嫌悪感を覚えさせたり、病原菌をばら蒔いたりしていい訳? 罪悪感に訴えるようなことを言って、ヴァーミンを認めさせようってことでしょ」
鈴木「生理的に受け入れられないというのは分かります。僕だって昔はそうでした」
博美「生理的にってこともあるけど、病原菌をばら蒔いてるでしょ」
鈴木「確かにそういう一面はあります」
博美「ほらね。駆除しなくっちゃいけないのよ」
鈴木「免疫力の強い人は感染しません。感染しないようにする研究をすべきなのに、駆除することばかり言ってる」
田中「リッダーマンも元々ヴァーミンだって言うしな。共存だって出来そうなものだな」
博美「違うわよ。リッダーマンは、保健所が作った強化スーツを着てる普通の人間よ。こんな生存に値しない連中と一緒にしたら気の毒だわ」
鈴木「政府がヴァーミンに資金を提供してるって知ってますか? 」
田中「まさか」
鈴木「そうなんです。僕の給料だって、それを原資にしてるんですから。政府はヴァーミンを駆除するって言ってる一方で、ヴァーミンを援助してるんですよ」
博美「そんなの嘘よ。いいわ、私が駆除してあげる」
  博美が出て行く。
  マスクをかけ、農薬の噴霧器を背負って、博美が戻って来る。
  農薬を部屋中に噴霧する。
田中「バカ、やめろ」
  むせる田中と鈴木。部屋中、真っ白になる。

○同・全景(朝)
  夜が明ける。
  雀が鳴いている。
  農薬を被って真っ白になった鈴木が、目をこすりながら出てくる。
  自動車が走って来る。鈴木を撥ね飛ばして走って行く。

○自動車の中(朝)
  男A(77)が運転している。女A(72)が助手席に乗っている。
男A「婆さん、今何か撥ねたかな? 」
女A「さあ、気がつきませんでしたけど」

○田中家・リビング(朝)
  マスクを掛けた博美が、家庭用洗剤を散布している。寝ている田中にも洗剤を振り掛ける。
田中「うわっ、何だ」
  飛び起きる田中。
  パジャマ姿の陽一が入って来る。
陽一「何してるの? 」
博美「もうヴァーミンなんて連れて来ちゃだめよ。お掃除だって大変なんだから」
  血だらけの鈴木を背負って里佳子が入って来る。
里佳子「小父さん、家の前で倒れてた」
  鈴木を放り出す里佳子。
  卒倒する博美。
田中「ダメだ。二日酔いだ。もう少し寝かせてくれ」
  再び横になる田中。

○商店街
  ゴキブリ伯爵が戦闘員を引き連れて来る。
  ヴァーミン一行を避ける人々。
  逃げる人々。
  男B(26)がヴァーミンの戦闘員にぶつかる。
  それを見ていた連れの女B(24)、
女B「うわぁっ、エンガチョ」
女B、男Bから離れ逃げていく。
男B「おいっ‥‥‥」

○ドラッグストア
  ヴァーミンの戦闘員が店内に散る。
  ゴキブリ伯爵が入って来る。
ゴキブリ伯爵「この店は我々ヴァーミンが占拠する」
  逃げる人々。
  店内を荒らしまわる戦闘員たち。
  店長が電話をしている。
店長「保健所ですか。ヴァーミンです。ヴァーミンに乗っ取られました」

○保健所・ヴァーミン対策本部
  最新鋭のスーパーコンピューターが並ぶ。
  ヴァーミン・アタック・チーム(VAT)のコスチュームを着た隊員たちが行き交う。
  青田玲子(24)が通信席でヘッドフォンマイクを付けている。
玲子「至急リッダーマンを派遣します。住民登録番号をお知らせ下さい」

○ドラッグストア
店長「住民登録番号? 」
  ヴァーミンの戦闘員が殴りかかる。
店長「うわっ。こんな時に住民登録番号なんて」

○ヴァーミン対策本部
玲子「住民登録番号をお知らせ戴かないとこの緊急通報は無効となります」

○ドラッグストア
  ヴァーミンの戦闘員に壁際に追い詰められ、足蹴にされている店長。財布を取り出して、中からカードを一枚抜き出す。
店長「あった」
  落ちている受話器を拾い上げる。
店長「3825‥‥‥」

○ヴァーミン対策本部
  玲子がテンキーで番号を入力している。最後にエンターキーを叩く。
  ディスプレーに住民税、固定資産税等の文字が表示され、その隣に『完納』の文字が次々と点灯して行く。最後にディスプレイいっぱいに『リッダーマン出動許可』の文字。
玲子「住民登録番号の照会が完了いたしました。厚生労働省令八百九十六号により、リッダーマンの出動要請が認められました。リッダーマン、およびその援護チームは直ちに出動して下さい」

○同・休憩室
  コーヒーを飲んでいるリッダーマン。
  玲子のアナウンスが響き渡る。
  立ち上がって体を解すリッダーマン。

○同・リッダーマン出動用通路
  周囲が金属で囲まれた無機質な通路。
  休憩室の様子とは打って変わって凄まじいスピードで走って行くリッダーマン。
  通路の切れ目でジャンプする。
  と、遥か下方にバイクが停められていて、そのシートに着座する。

○保健所・正門
  バイクに乗ったリッダーマンが出てくる。
  後に四台のVATの装甲車が続く。

○同・ヴァーミン対策本部
  筒井重義(52)がモニターを見ている。
筒井「簡単に片付けるなよ」
玲子「何故です? 」
筒井「予算の増額がし辛くなる」
  成程と言うように頷く玲子。

○田中家・リビング
  ソファに博美が寝ている。
  陽一が博美の額に手拭を乗せている。
  田中が胃薬を飲んでいる。
  鈴木が田中の足元を這って行く。
田中「おい、何処行くんだ。そんな大怪我して」
鈴木「仕事に行かないと」
田中「そんな怪我してちゃ無理だろ。俺だって今日は二日酔いで休むんだから、おまえも休め」
鈴木「こんなことで欠勤してたらクビになります。それじゃ家賃が払えない」
  這って行く鈴木。
田中「律儀だね」
  這って行く鈴木を見ている田中。

○田中の車・内
  田中がセルを回す。
  助手席に鈴木が座っている。
田中「アジトまで送ってってやるよ。何処にあるんだ? 」
鈴木「(喘ぎながら)今からアジトに行っても、皆んな出動した後だと思うんで、作戦実行の現場に直行して下さい」
田中「現場って何処だ? 」
鈴木「さあ」
田中「さあってことないだろ」
鈴木「(喘ぎながら)いや、極秘プロジェクトだから隠してるって訳じゃなくって、ホントに知らないんです」
田中「おまえは何処まで這って行くつもりでいたんだ? 」
鈴木「ラジオ、点けてみて下さい」
  田中、カーオーディオのスイッチを入れる。
アナウンサーの声「‥‥‥のドラッグストアを占拠したヴァーミンはゴキブリ伯爵を名乗り、従業員ら八名を人質にしています。このドラッグストアは中区の三丁目にあり、付近一帯はVAT《ヴァット》により封鎖されておりますので、三丁目方面に向かう方は迂回をお願いします」
田中「三丁目か。よし、しっかり捕まってろ。三分で着けてやる」

○田中家前の道路
  ガレージから田中の車が勢い良く飛び出して来る。

○中区三丁目の交差点
  VATの装甲車が停まっている。
  隊員が通行車両を迂回させている。
  田中の車がやって来る。

○田中の車・内
田中「ようし、突っ込むぞ」

○中区三丁目の交差点
  田中の車が制止するVAT隊員を振り切って、通過して行く。
  慌てて、装甲車に乗り込み後を追う隊員たち。

○ドラッグストア前
  ロープが張られ、VAT隊員が野次馬を制止している。
  ストア正面では、リッダーマンがゴキブリ伯爵と対峙している。
ゴキブリ伯爵「またしても我らの邪魔をするか、リッダーマン。命が惜しくば直ぐに立ち去れい」
リッダーマン「黙れヴァーミンの怪物。貴様ごときにやられる私ではないわ。私が今まで何匹のヴァーミンを倒したのか知らぬ訳でもあるまい」
ゴキブリ伯爵「ぬわっはっはっはっは。誰が貴様の命を取ると言った。我々が人質を取っているのを忘れたか」
リッダーマン「汚いぞヴァーミン、正々堂々と勝負しろ」
ゴキブリ伯爵「バカかお前は。スポーツの試合をしてる訳でもないのに、正々堂々と戦えるか」
リッダーマン「くっそ。正義の味方が人質を犠牲にする訳にはいかない」
ゴキブリ伯爵「その通りだ。判ったらさっさと立ち去れい」
  自動車の音が近づく。
  野次馬やVAT隊員が悲鳴をあげながら進路を開けた所に、田中の車が突っ込んで来る。
  急ブレーキの音がして、リッダーマンとゴキブリ伯爵を押し倒しながらドリフトして行き、ストアの壁に当たって停車する。

○田中の車・内
田中「どうだ、三分でついたろ」
  助手席で鈴木がぐったりしている。
田中「おい、おまえ‥‥‥」
  田中が鈴木の肩を掴むと、鈴木がゲロをする。
鈴木「車、弱いんです。ちょっと、外で吐いて来ます」
田中「そんな暇ない。早く着替えろ」
  鈴木のバッグから戦闘服を引っ張り出す田中。

○ドラッグストア前
  唖然としている野次馬たち。
  もがき苦しんでいるリッダーマンとゴキブリ伯爵。
  それを尻目に車から出てくる田中。

○ドラッグストア・内
  人質がロープで縛られている。
  ヴァーミンの戦闘員が人質に銃を向けている。
戦闘員A「何か外が騒がしくないか」
戦闘員B「見に行こうか」
  戦闘員たちが一人残らず出て行く。
  顔を見合す人質たち。縛られたまま、立ち上がって逃げ出す。

○ドラッグストア前
  田中に戦闘員用のブーツを履かせて貰っている鈴木。
  リッダーマンがよろよろと立ち上がる。
田中「おっ、来るぞ。さあ、行け」
  田中が鈴木の背中を叩いて送り出す。
  リッダーマンと睨み合う鈴木。
  リッダーマンが両手を胸の前に伸ばす。
リッダーマン「イクスターミネーション」
田中「いきなり必殺技かよ」
鈴木「おえっ」
  ゲロをしながら前のめりに倒れる鈴木。
  その時、イクスターミネーションが放たれ、鈴木の頭をかすめて行く。
  丁度、よろよろと立ち上がりかけたゴキブリ伯爵に命中する。
ゴキブリ伯爵「うわぁっ」
  爆発炎上するゴキブリ伯爵。
  装甲車がやって来る。勢い余って田中の車にぶつかって停まる。後続車も次々にぶつかって停まる。
  装甲車から出てきたVAT隊員が、鈴木を抱き起こし、連れて行く。
  二人のVAT隊員が来て、田中の両脇を掴み連れて行く。
田中「おいおい何だ何だ、何処に連れて行くんだ」
  装甲車に乗せられる田中。

○ヴァーミンのアジト
  ヘドラーの脇に控えるメドゥーサとラット。
  モニターを見ている。
メドゥーサ「またしてもリッダーマンめ」
ヘドラー「ゴキブリ伯爵の後任の者を選ばねばな」
ラット「御意」
ヘドラー「リッダーマンに対し、単身で闘いを挑んでいた戦闘員は誰か? 」
ラット「パートの者です」
ヘドラー「パートか。パートでありながら、リッダーマンと対決しようとするその心意気、なかなか見上げたものだ」
ラット「御意」
ヘドラー「だが、現場到着の遅刻は許しがたい怠慢である故、減給にせよ」
ラット「御意」

○ヴァーミン対策本部・ロビー
  高い天井を持つ広いホール。
  VAT隊員や市民が行き交い混雑している。
  担架に乗せられたリッダーマンが入って来る。
隊員A「リッダーマンが負傷するなんて。そんなに強いヴァーミンが登場したのか」
隊員B「いや、交通事故だ。車に撥ねられただけだ」
  陽一が辺りをキョロキョロ見回しながら入って来る。
  受付のカウンターを見つけ駆け寄る。
陽一「先ほど逮捕された田中健次郎の身元引き受けに伺いました」
  玲子が通り掛かる。カウンター越しに陽一を見て、
玲子「ああ、検問突破してリッダーマンを撥ねちゃった人だ。凄いことする人ね。リッダーマンが怪我をするなんて前代未聞よ。君はそんなことしちゃダメよ」

○ヴァーミン対策本部・留置所
  留置所に入っている田中。
  隊員Cが陽一を連れてくる。
隊員C「お宅のご主人に間違いありませんか? 」
陽一「間違いありません」
隊員C「今出しますから、お連れ下さい」
陽一「はい」
  床にひざを付き、陽一の目線に目を合わせる隊員C。
隊員C「それと、君の家がヴァーミンに襲われても、リッダーマンは助けに行けなくなってしまった。住民登録番号がブラックリストに載ってしまったんだ。わかるね。これはリッダーマンが君に意地悪をしている訳でもなんでもない。だからリッダーマンのことを嫌いになったりせずに、これからも応援してくれるね」
 頷く陽一。

○田中家・正面
  ボロボロになった田中の車がやって来る。

○田中家・リビング
  農薬と洗剤だらけになった部屋。
  ソファに横たわっている博美。
  マグカップを瞬間接着剤でくっつけている里佳子。
  陽一に連れられ、田中が入って来る。
陽一「身元引き受けしてきたよ」
  博美が起き上がりながら、
博美「少しは考えて下さいよ。隣の草田さんに何て言われるか」
田中「悪い悪い。ちょっと悪乗りし過ぎた」
博美「? 」
  田中と一緒に鈴木がいる。
博美「その人がどうしてここにいるの? 」
田中「アパートを追い出されたって言うから、家においてやることにした。なに、リッダーマンを倒して家賃が払えるようになるまでさ」
 博美、卒倒する。
                                  了

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